引越しで発生するトラブルのひとつが荷物の破損です。もし「運ばれた家具にキズがついていた」「食器が割れてしまっていた」など、破損があった場合は、どうなるのでしょうか。結論から言うと、引越し業者に責任があれば補償されます。されますが、引越し業者に責任があることを立証するのは決して簡単ではありません。そのため、そもそも破損しないような梱包に注意することや、自分で保険に入るといった方法も検討しましょう。
引越し業者は荷物の破損を補償してくれるのか?
まず、大手引越し業者が、公式サイトでどのようにアナウンスしているか、当該箇所を探して抜粋してみました。
●アート引越センター http://www.the0123.com/case/reparation/ 万一事故が起こったら 作業は万全の注意を払ってすすめますが、万一破損、紛失などの事故が発生した場合、作業完了後すみやかに担当支店までご連絡をお願いします。専門の係員がお伺いして必要な処置をおこないます。 |
●サカイ引越センター http://www.hikkoshi-sakai.co.jp/insurance/index.html 【運送業者の荷主に対する賠償責任】 様々なアクシデントから大切な家財をお守りします。 サカイ引越センターは、万全の注意を払い、お客さまの大切な家財を輸送させて頂いております。万が一家財に損害が発生した場合は、標準引越運送約款に基づいて賠償いたします。 |
●アリさんマークの引越社 (公式サイト内には特段の記載なし) |
●アーク引越センター http://www.0003.co.jp/confidence/ 万一の場合もしっかり補償 アーク引越センターは、お客様に安心しておまかせいただける引越サービスをご提供しております。しかも、万一の場合には保険(当社負担)により総額1,200万円、1梱包30万円までの補償を準備しております。(作業終了後から3か月間お申し出いただけます) |
●ダック引越センター Q:万が一家具や建物が傷付いてしまったらどうなるのでしょうか。 A:ダック引越センターでは、引越作業中に家具や家財の破損や紛失などの事態が発生した場合は標準引越運送約款に基づき総額 2000万円を限度として保障しますのでご安心ください。営業担当員よりご説明致します。 ※ダック引越センターは2017年9月末にて営業を終了しております。 |
●ヤマトホームコンビニエンス http://www.008008.jp/contact/faq/ Q:引越で壊れたものは、賠償してもらえるのですか? A:当社の過失による事故については、責任を持って賠償させていただきます。詳しくは見積もり時にお問い合わせください。また、各引越運送約款をご覧ください。 |
●日本通運 http://www.nittsu.co.jp/hikkoshi/faq/ Q:荷物が破損した場合の補償はどうなっていますか? A:標準引越運送約款に基づき、速やかに賠償します。また、当社の引越し商品には引越荷物運送保険が付帯されており、補償内容は業界最高水準となっていますので、万一の事故にもご安心ください。 |
ほとんどの業者が、補償について記載しています。しかし、記載していない業者も補償がないというわけではありません。というのも、引越し業者は国土交通省が定めた「標準引越運送約款」に従うことになっているからです。
「標準引越運送約款」とは引越し業者と利用者の間のトラブルを防ぐために標準的なルールを定めたものです。荷物の破損については次のように定められています。
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第九章 責任
(責任と挙証等)
第二十二条 当店は、自己又は使用人その他運送のために使用した者が、荷物の荷造り、受取、引渡し、保管又は運送に関し注意を怠らなかったことを証明しない限り、荷物その他のものの滅失、き損又は遅延につき損害賠償の責任を負い、速やかに賠償します。
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業者側に責任のある荷物の破損などは業者が賠償責任を負う、ということです。当然と言えば当然です。また、こういった事態に備えて、引越し業者は保険に入っています。「運送業者貨物賠償責任保険」などと呼ばれる、運送業者が加入する損害保険があって、賠償金などが発生した場合はこの保険から支払われることになっているのです。
それでは、破損があっても補償してもらえるから安心!と言えるかというと……、必ずしもそうとは言えないのです。
約款によって、業者に責任のある破損は業者が補償しなくてはなりません。ここで、破損が起こったとき、それが本当に引越し業者の責任と言えるかどうかという点が問題になります。
保険が補償してくれるということは、引越し業者自体は賠償金を払わなくても良いということですから、もったいぶらずに責任を認めて補償すればいいのでは?と思うかもしれません。ですが、引越し業者は損害保険会社に保険料を支払っています。保険料はリスク(保険金を支払うことになる確率)に応じて決まりますので、あまり賠償金の支払い事例が多いと、損害保険会社も保険料を上げざるをえません。自動車保険で、事故を起こして保険が降りると次の年から保険料が値上がりするのと同じ理屈です。
そのため、いくら保険で守られていても、引越し業者としては保険を使いたくないという心理は働いてしまいます。そこで、業者としても、責任の所在についてはかなり厳密に判断をすることになります。保険に入っているから保険で補償します、とは安易には決定しないということです。
みん評に届いた口コミの中にも、破損があったけど補償されなかった、業者が責任を認めるまで時間がかかったという声があります。
もしも破損があった場合はどう対応するのがベストか?
万一の破損の場合に、補償のトラブルをなくすにはどうすればいいでしょうか。次のような点に注意してください。
- 破損の有無をできるだけ当日に確認する
- 現場担当者に破損を確認してもらったうえで、責任者名を聞いておく
- 具体的な補償についての交渉は後日、責任者との間で行う
- 後になって判明した破損はできるだけ早く連絡する
(1)破損の有無をできるだけ当日に確認する
時間が経ってからだと、現場の状況がどうだったのかの記憶は利用者も作業員もあいまいになっていきます。片づけは後日にするとしても、当日のうちにすべてのダンボール箱を一度は開け、すべての家具を点検しておくべきです。特に、家具の、上部や底面、裏側など、気付きにくい箇所もきちんと確認します。目の前で家具をどこかにぶつけられた、ダンボールを落とされた、といったケースでは、その場ですぐに状況を確認します。
(2)現場担当者に破損を確認してもらったうえで、責任者名を聞いておく
当日、破損個所を見つけたら現場の担当者にも確認してもらいましょう。できれば、この確認作業自体、最初から最後まで担当者に立ち会ってもらうのが確実です。ただし、破損が見つかった際、その場で担当者を責めても事態は好転しません。責任の所在がはっきり検証できない段階では、担当者もむやみに謝罪できないものですので、この段階では、破損が発生しているという事実を確認したうえで、現場担当者と、この件についての業者の責任者の名前を確認しておきます。もし、引っ越し作業が完了していないようであれば、確認だけ行って、まずは作業を終えることを優先してください。
(3)具体的な補償についての交渉は後日、責任者との間で行う
その後、業者との間で、破損の責任は業者にあるのかどうか、検証を行います。このときの対応や流れは業者によって異なりますが、あまり感情的にならずに対応するのが好ましいでしょう。連絡は、待っていてもこないことがあるので、こちらから行います。担当者や、電話で対応してくれた人の名前などを逐一確認し、折り返しなどがなくても、こちらからこまめに連絡をとってみます。
(4)後になって判明した破損はできるだけ早く連絡する
そのときは気づかなくて、後からわかった破損についてはできるだけ早く連絡してください。約款では、破損について申し立てができるのは引越し日から3か月以内です。
以上のような流れを経ても、残念ながら補償されない場合はあります。特に、利用者が梱包したダンボール箱に入っていて、外から見ると箱に壊れた箇所・へこんだ箇所などはないが、中を開けると品物は壊れていた、というケースは、かなり難しいと考えておくべきです。また、家電製品などが、外傷はないのに運搬後に不具合が発生した場合なども補償されるのは難しいです。
利用者の感情としては、理不尽に感じてしまうのですが、こういったケースに対しては、「梱包を厳重にする」「どうしても壊されたくないものは自分で運ぶ」というのが最善の解決法です。
梱包に関しては、「誰が運ぶかわからない」「荒っぽい対応をされる可能性がある」ことをあらかじめ意識して行います。「ワレモノ注意と書く」「ていねいに運んでくださいと声をかける」などの方法は「適切な対応ではない」と考えましょう。注意書きは目に入らない、声をかけた人と違う人が運ぶ場合があるからです。そういう、配慮を促す方法ではなく、荒っぽい運ばれ方をしても大丈夫な梱包にすることが大事です。
自分で荷物に保険をかけておくことも可能
引越し業者は、賠償責任が発生したときのために保険に入っていると述べましたが、それとは別に、利用者が自分で加入する保険があります。一般に「運送保険」などと呼ばれているものです。自分で入るのですから、利用者が保険料を負担しなくてはならないのですが、もしもの場合、引越し業者が補償してくれなくても、この保険から補償を受けることができます。
運送保険は、引越し業者を通じて加入します。入りたいときは見積もりをしてくれた担当者に相談してみてください。通常の引越し料金に、保険料を上乗せする形になります。お金はかかってしまいますが、運送保険による補償は、利用者自身が入る保険ですので、比較的、スムーズに補償されます。
保険料は、保険金額(補償される額の上限)によるのですが、1000万円の保険金で1,000~2,000円程度のようです。
ただし、運送保険でも、利用者の梱包が非常にいいかげんであるなどして発生した破損などはやはり補償されません。補償の有無にかかわらず、破損はないほうがいいに決まっているのですから、梱包は注意深く行うようにしましょう。